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Melodies of Life (後篇)

こんばんは。
今日は7月23日。wayaさんが設定された、夏海さんの誕生日!
夏海さん、お誕生日おめでとう!
というわけで、先週のSSの続きで、お祝いです。




「はぁ…はぁ…ふぅ…はぁ…はぁ…」
マリンの顔は苦痛に歪み、汗でびっしょりと濡れていた。
漏れる吐息にも苦痛が滲んでいた。
「頑張れ! 頑張れ、マリン…!」
「マリンちゃん、頑張って…!」
彼女の苦しい呼吸と共に、
苦しむ彼女の手を握り続けるパーシヴァルと、
その隣に付き添うパーシヴァルの母の、二人の懸命に励ます声が繰り返される。
「はぁ…はぁ…大丈夫…ふぅ…はぁ…俺…最後まで頑張るから…」
夫に手を握り返すと共に、マリンは夫と義母に笑顔を向けた。
その表情には、依然苦痛が滲み出ている事に変わりは無かったが、
確かな力強さ、そして辛さだけではない、別の感情が強く宿っていた。
(マリン…!)
妻の返事に応えるように、パーシヴァルはもう一度、彼女の手を強く握り返した。



【Melodies of Life (後篇)】



マリンが産気づき、お産が始まってから、
もうじきに一日の半分近くの時間が経過しようとしていた。
仲間達との再会の時を楽しみ、昼食を前にしてのお茶会の最中、
彼女は産気づいた。
それからすぐに、パーシヴァルの両親はお医者様を呼び、
急いで彼女のお産を助ける準備を始めた。
マリンはすぐに夫婦の寝室にあるベッドに寝かされ、
その隣で、パーシヴァルが付きっきりで彼女を見守り、
彼も妻を看護すると共に、言葉で励まし続けていた。
やがてお医者様と助産婦さん達が到着。
パーシヴァル、パーシヴァルの両親、お手伝いさん達、
そしてユウ達のおかげもあって、お産の準備はすぐに整い、
後は無事に赤ちゃんが生まれてくるのを待つのみとなった。





「マリンさんも赤ちゃんも、大丈夫かな…?
 二人とも、無事だといいけど…」
「大丈夫よ!絶対!」
「ああ、お医者様達も付いているし、
それにパーシヴァルもお母さんもずっと傍にいる。
心配する事は無いさ、ヒカル。」
不安そうに呟いたヒカルに、ユイとユウが優しく声をかける。
既にこの日、幾度となく繰り返されたやり取り。
――心配なのは、心配の言葉を口にしたヒカルだけでなく、
励ましたユイやユウも、アケチやテネジーも同じだった。
ここにいる誰もが、
その胸中は人生で初めてのお産を迎えている仲間の事への心配でいっぱいだった。
「経産婦さんの出産に比べて、初産は時間がかかりますからね…。
 丸二日、三日かかる事もおかしくはありません…。」
アケチはそう言って一度視線を室内に掛かった時計に向けた。
時計の大針は、すぐに11時を指そうとしているところだった。
「…今は、早く無事に産まれてくる事を祈るしかないんですね…。」
テネジーの言う通り、今はユウ達に出来る事は、
マリンの出産が無事に終わる事を、
そして赤ちゃんが無事に産まれてくる事を祈るばかりだった。

「夜分遅くまでマリン君と赤ちゃんの為に、ありがとうございます。
 本当に本日はお世話になりまして…。改めて、お礼を言わせてください。」
同室していたパーシヴァルの父が、ユウ達に深々と頭を下げる。
「いえいえ、そんな。こちらこそ…」
一同で共にお辞儀を返したところで、ユウが言葉を続ける。
「…おとうさん、俺達、もう少し、お邪魔させてもらっていてもよろしいでしょうか…?」
翌日に、ユイ達はアブニール社の仕事等の件で、
この町の企業の方々との面会に臨む予定を控えていた。
身体の事を考えると予約してある宿に戻って身体を休めるべきでもあるのだが、
今は誰もそうしたいとは思っていなかった。
夕刻までの時点で、五人は手伝える事は何でもしようと努めた。
もう手伝える事は無くなり、
今は五人とも、ここで赤ちゃんが無事に産まれてくるのを待つだけ。
仕事は午後から。
仕事は絶対に疎かにはしない。してはいけない。
最低限の睡眠時間だけは確保しなくてはならない。
だけど、それはまだもう少し後でいい。
今はただ、目の前のマリンのお産が心配だった。
時間が許すギリギリまで、ここで待ちたい。五人全員がそう願っていた。

「…ありがとうございます。
 …本当にパーシヴァルとマリン君は、いい友人を持ちました…。」
パーシヴァルの父は、もう一度ユウ達に、心からの感謝の言葉を述べた。





「はぁ…はぁ…なぁ…」
「何だ?」
苦しそうに吐息を漏らし続けながら、マリンはパーシヴァルに問いかける。
「赤ちゃんを産むって…はぁ…こんなに…ふぅ…痛い事だったんだな…」
パーシヴァルの母さんも。イーベルさんやヒトミさん達も。
世界中の子供を持つ母親達も。
そして、俺の母さんも。
みんな、みんな、こうやってお腹を痛めて、赤ちゃんを産んだんだ―。

「ごめんな…言葉で励まして、手を握ってやる事しかできなくて…」
わかっている。
妻の出産に際して、夫は本当に限られた範囲内でしか、妻の助けを起こせない。
それがわかっていても、
目の前で陣痛の痛みに苦しみ、それに必死に耐えるマリンの姿を前に、
パーシヴァルは自身の無力さを痛感せずにはいられなかった。
彼女に痛い想いをさせまいと、辛い想いをさせまいと…
彼女を守ると、そう誓ったのに。
どうあっても、こればかりはできない事だと理解していても、
パーシヴァルは心に痛いものを感じずにはいられなかった。

「謝るな…はぁ…はぁ…お前が…ふぅ…
 傍にいてくれる…はぁ…はぁ…それだけで…はぁ…はぁ…嬉しいから…」
「マリン…」
苦しさに呻きながら、マリンはまた夫に笑顔を向けた。
そう、わかっている。
彼の想いも。辛さも。
だけど、それでよかった。充分すぎた。
最愛の夫が、すぐ傍にいる…。
休まずずっと傍にいてくれて、ずっと手を握って、ずっと励ましてくれて…。
彼の優しさが、愛情が、ずっと自分を助けてくれている。
嬉しくないわけがなかった。
パーシヴァルは、今この瞬間も、マリンを救い続けていた…。

それに、陣痛の痛みは確かに苦しくて辛いものだけど、
それは、不幸なものではなかった。
この痛みは、生まれてくる新しい命の鼓動そのもの。
痛みに耐えきったその先に、新しい家族との出会いが待っているのだから。


「~~~~~~~~~!!!」
「マリン頑張れ…! マリン…! マリン…!!」

激しくなる痛み。
それは、いよいよ「その時」が近付いている事を意味していた。
今まで感じた事のない痛みに、マリンの意識は朦朧とする。
それでも、意識が朦朧とし、薄れていく間にも、彼女ははっきりと感じ続けていた。
繋がる手。そこから伝わる、力強く、優しい温もり。
そして、必死に自分を励ます声。
それは、夫の、義母の、お医者様達の声。そして――。


頑張るから、最後まで。
――だから、あなたも頑張って――。
元気に生まれてきてくれると、信じてる―。


おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ!
――ほら、聞こえてきた。
新しい命の声が。
命の歌が――。


「おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ!」
「マリン…! 生まれたぞ、マリン…!」
「元気な女の子よ! マリンちゃん!」
はっきり聞こえた。
元気な産声と、喜びに溢れた夫と義母達の声。
「…生まれたんだ…」
そして、はっきりと見た。
目の前で、元気よく手足を動かしながら大声で泣く、
自分とへその緒で繋がった赤ちゃんの姿を。
そう、自分とパーシヴァルの子供の姿を。
「おめでとう、マリンちゃん!」
「本当に…よく…頑張ったな…。」
「うん…。ありがとう…。」
「おめでとうございます。…お母さん…」
助産婦さんに促されて、マリンは手を伸ばす。
生まれたばかりの新しい命は泣き止む事無く、
ますますその元気を増すように泣き、身体を動かしていた。
元気な小さな身体を、マリンはゆっくりと、はだけた胸元に抱き寄せる。
「大丈夫だよ…。怖くない…怖くないよ…。」
静かにそう囁きかけて、小さな命を優しく抱き締める。
素肌を通して、生まれたばかりの子供のぬくもりと、命の鼓動が伝わってくる。
「赤ちゃん…。俺と、パーシヴァルの赤ちゃん…。」
胸に抱く我が子を見つめるマリンの目元には、熱い涙が滲んでいた。
それは、すぐに彼女の頬を伝う。
その顔は、笑っていた。
幸せいっぱいの笑顔で。泣いて、笑っていた。
母子の姿を優しく見守るパーシヴァルと彼の義母の目元にも、
マリンと同じように涙が滲む。
とめどなく溢れてくる涙は、しばらく止む事は無かった。

――父さん、母さん、シュネー先生。赤ちゃん、無事に産まれたよ。
――俺、お母さんになったよ!





マリンとパーシヴァルの赤ちゃんが無事に産まれて、分娩第3期も終わり、
母子の状態も健康のまま落ち着いたところで、
マリンやパーシヴァルの希望もあり、
応接室でマリンのお産が無事に終わるのを祈り、待っていたユウ達が、
マリンと赤ちゃんのいる寝室に招かれる事になった。
パーシヴァルの父親と一緒に、ずっと待っていたユウ達。
マリンが無事に出産した報は、すぐに彼等にも伝えられており、
その時、応接室にも喜びの歓声が満ち溢れた。
みんなすぐに新しく生まれたばかりの「親子」に会いに行きたいばかりだったが、
母子の状態が落ち着くまで、それを我慢。
夜遅くの疲れなど、彼等には何の問題も無かった。
そんな彼等が母子のいる寝室に向かったのは、
時刻は深夜の2時になろうとしている時だった。
(ちなみにパーシヴァルの父は一足先に
寝室にいる妻と息子夫婦、そして孫にちょっと会いに行きました。)


「改めておめでとう、マリン君。パーシヴァルも母さんも、お疲れ様。」
「ありがとう、お義父さん。」
「さぁ、皆さんも…」
「ありがとうございます…」
パーシヴァルの父に促されて、ユウ達もすぐ前へ。
「マリン、長い間本当にお疲れ様。そして、本当におめでとう!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
胸に赤ちゃんを抱くマリンの姿を目の前に、ユウ達の顔にも一層喜びの笑みが広がる。
そして湧き起こる、いくつもの祝福の声。
「ありがとう、みんな。」
マリンの顔にはまだ出産の疲れが残っていたが、その笑顔は、幸せに満ち溢れていた。
「パーシヴァルも、おめでとう!」
「もうこれで、パーシヴァル君も立派なお父さんの仲間入りだね!」
「ああ…ありがとう、みんな。」
パーシヴァルの表情もまた、マリンと同じだった。
彼もまた、母と共にずっとマリンのお産に付き添っていたのだ。
その疲れは表情にも残っていたが、やはり幸せな笑顔が広がっていた。
そして、五人の視線はマリンの胸に抱かれる、小さな命に。
「この子が、マリンさんとパーシヴァル君の…」
「うん。かわいいだろ…?
 さっきまでは起きていたんだけど、
おっぱい飲み終わったら、すぐに寝ちゃったんだ。」
五人は静かに、母の胸に抱かれてすやすやと眠る赤ちゃんの寝顔を見守る。
生まれたばかりの、小さな小さな、新しい命。
穏やかな寝顔で眠る赤ちゃんの表情は、安堵に満ちていて、笑っているようにも見えた。
見ているだけで心にあたたかく優しいものが満ちていく、かわいらしい寝顔。
幸せの風が、五人の心にも吹く。
「みんな…本当に…ありがとうな…。」
微笑ましく赤ちゃんを見守る仲間達に対し、マリンはもう一度、感謝の言葉を述べた。
「みんなにもこの子の事を祝ってもらえて、俺、本当に嬉しいよ…。
 この子に会えたのは…パーシヴァルに会えたおかげで…
 みんなにも会えたおかげだよ…。」
マリンの声には、やがて涙の色が滲み、彼女の目元にも、再び涙が潤んでいた。
「俺からも…礼を言わせてほしい。みんな、本当にありがとう。」
パーシヴァルの目元にも、うっすらと涙が滲んでいた。

パーシヴァルとマリン。
いくつもの出会いを、仲間達との出会いを経て、
いくつもの出来事を経て、二人の運命は重なった。
そして、今ここに、二人は新しい出会いを果たした。
二人と血の繋がった、新しい家族との出会い。
新しい家族が、今ここに生まれたのだ。

(パーシヴァル…マリン…。本当に、良かったな…)
仲間の幸せは、自分達にとっても幸せな事だった。
新しい幸せを掴んだ二人を、ユウ達は心から祝福した。
あの「謳われぬ戦争」の頃から、ずっと二人の仲を応援していた仲間達だったが、
二人は遂に結婚を経て、最愛の子供を手に入れた。
幸せな家族の姿に、自分達も幸せを感じずにはいられなかった。
気付けば、パーシヴァルの母も、ユイ、ヒカル、テネジー達も、
目元に涙を浮かべ、貰い泣きの涙を流していた。
マリンの壮絶な過去。
それはパーシヴァルや仲間達、パーシヴァルの両親にとっても周知の事実。
一時には女性としての尊厳をも踏み躙られ、奪われていた彼女は、
今、女性としての最高の幸せを掴んでいた。
だからこそ、同じ女性である彼女達には、男性陣以上に感じ、思うところもあった。
(本当に…おめでとう…! マリンさん…!)

いくつもの涙が、流れる。
それは全て、喜びと幸せに満ち溢れた、あたたかい涙だった――。





んく。んく。んく。んく。
静かな寝室に、かわいらしい音が規則正しいリズムを刻み、木霊する。
「…おいしい…?」
マリンははだけた胸元に抱く愛娘に、そっと優しく語りかける。
まだ目を開けていない赤ちゃんは、母の露わになった豊かなあたたかい乳房に抱き着き、
甘い食事にありついていた。
「…いっぱい飲んで、大きく元気に育つんだぞ(はぁと)」
母の優しい眼差しが、赤ちゃんを見つめる。
赤ちゃんにとって、お母さんの胸は世界で一番あたたかい場所。
赤ちゃんにとって、今の時間は、まさに至福の時間。
そして、それはお母さんにとっても同じ。
母乳の授乳は、赤ちゃんに栄養を与えるだけでなく、
あたたかい愛情を与え、子供との絆を育む、母子の大事な時間。
母乳、乳房と素肌のあたたかさと感触、声。
全てが、赤ちゃんに母の愛情を伝え、与えるもの。
母子の愛情が最も通じ合う、あたたかい時間。

「おっぱい、いっぱい出てるみたいだな。」
「うん。よかったよ、すぐに赤ちゃんにいっぱい飲ませる事ができて…」
そして、母子をあたたかく見守る優しい眼差しもそこにはあった。
一睡する事無く、妻と生まれたばかりの愛娘に付き添うパーシヴァル。
愛娘の誕生の喜びに、疲労は既に完全に吹き飛んでしまった様子だった。

窓から見える水平線には、既にうっすらと陽の光が滲んでいた。

ユウ達五人は一度宿に戻る事になり、
パーシヴァルの両親も息子家族を気遣い、パーシヴァル・マリン夫婦の寝室には、
若夫婦と、生まれたばかりの赤ちゃんの、三人だけが残されていた。
新しい両親と子だけの、初めての時間だった。

「身体、大丈夫か?」
「うん。疲れていないと言ったら嘘になるけど…不思議と楽な気分だ。
 そんなに眠くもないよ。……んっ…」
再びマリンの視点が愛娘に移る。
こちら側の方はもう飲み終えたみたいだな。
そう判断したマリンは愛娘の口を左の乳房から離すと、
「はいはい、こっちも召し上がれ(はぁと)」
抱く赤ちゃんの向きを変えて、今度は右の乳房にその小さな口を寄せる。
赤ちゃんはすぐに口を開くと、再び元気よく、母親の乳房に吸い付く。
「んっ…おなかいっぱいになるまで飲むんだぞ…?」
優しい眼差しで愛娘を見守り続けながら、
やがてマリンはベッドの隣に腰掛ける夫に静かに語りかける。
「不思議だよ。
 この子におっぱい吸ってもらって、身体の疲れまで無くなっていくみたいだ…。」
「なんだったら俺も吸ってやろうか?そうすれば更に疲れがとれるんじゃ…」
「却下。このおっぱいは今は赤ちゃんだけのものだぞ。」
「嘘嘘。冗談で言っただけだ。」
砕けてそう言いながらも、パーシヴァルの優しい眼差しは、
マリンに、そして愛娘へと注がれ続けていた。
マリンも、愛娘を見守り続けながらも、その優しい眼差しを夫に向ける。
愛情に溢れた笑みは、彼にも注がれていた。


「…ぁ…」
「マリン…?」
愛娘への授乳を続けるマリンの表情が、声色が変化した事を、
パーシヴァルは聞き逃す事は無かった。
「ごめん、また涙出てきちゃった…」
すぐにハンカチを示すと、マリンは頷いた。
パーシヴァルはそっと妻の目元を拭う。
「…マリン、何で赤ちゃんは生まれた時に泣くと思う…?」
「…科学的な理由は、ずっと前にお前に教えてもらったな。」

(赤ちゃんが生まれた時に泣く理由の説。
子宮の中にいる頃の赤ちゃんは肺呼吸をせず、
へその緒でお母さんの身体から直接栄養をもらっていますが、
出産でお母さんのお腹の中から外に出て、空気に触れる事で
赤ちゃんは肺呼吸を始めます。
大声で泣くのは、生まれたばかりの赤ちゃんにとって大きい運動で、
泣くことで、肺の機能を活性化させて、酸素を身体にたくさん取り入れる為…
 とも言われています)

「ああ。だが、それ以外の理由があると俺も思っている。
 …お前は、どんな理由だと思う。」
「…不安で、怖いから…?
 それまでずっとお母さんのお腹の中が赤ちゃんにとっての世界の全てだったのに、
 お母さんにずっと守ってもらっていたのに、
 そこを出て、いきなり知らない世界に出てきて、
やっぱりそれで不安で怖いから、とか…」
「…それもあると思う…。
だが、それだけじゃないんじゃないかな。
俺は、こうも考えている。
…不安だけど、同時に、嬉しいから、じゃないかなって…」
「嬉しいから…?」
「ああ…。
 …不安な事もいっぱいあるけど、
 楽しい事、幸せな事だって、この世界にいっぱいあるじゃないか。
 人はそれを求めて…無限の可能性を持って生まれてきて、
 この世界を生きて、創り続けてきたんだ。
 …この世界で生きる事は、怖いけど、嬉しい事だって、
 赤ちゃんは…それを本能で知っているんだと思う。
 それに、たくさんの出会いだって待ってる。
 嬉しくない出会いだっていっぱいあるだろうけど、
 嬉しい出会いだって、必ずたくさん待ってる。
 俺が親父やお袋と、みんなと、そして、お前やこの子と出会えたように。」
「パーシヴァル…」
パーシヴァルは愛娘に視線を落とし、そっとその身体を優しく撫でる。
「怖い事や、不安な事も、確かにいっぱいある…。」
そう、マリンがかつて経験したように。
消し去れない、悲しい過去。
それは彼女自身にとってだけでなく、パーシヴァルにとっても、辛く、悲しい事実。
パーシヴァルの声色が、僅かに曇る。
「だけど…嬉しい事や、楽しい事も、いっぱいある。
人は辛い事からも立ち上って、幸せを掴む事ができるんだ。
人は、生まれた時からどこかでそれを知ってるのかもしれない…。」
そう、二人ができたように。
「あくまでも俺の考えだけど、俺はそう考えてる。
 赤ちゃんはこの世界に生まれてきて、
 怖くて、そして、嬉しくて泣くんだって。」
そこまで言い終えて、パーシヴァルは優しく妻の肩を抱いた。
「俺、この世界に生まれてこれて、本当に良かったって思ってる。
 お前にも、この子にも会えたからな…。」
優しいパーシヴァルの眼差しに、マリンも向き合う。
その目には、再びとめどなく涙が溢れ、頬を雫が伝っていた。
「俺だって…はっきり言えるよ。この世界に生まれてこれて良かったって…。
 俺も…この世界に生まれなきゃ、みんなに、そしてお前にも、この子にも会えなかったからな…。」
辛い事も、悲しい事も、過去に数えきれないほど経験してきた。
けれど、マリンはこの世界で生きていく事を一切後悔していない。
この世界で、たくさんの大切な人達に、
そして、愛する人に巡り会う事が出来たから…。
幸せをその手に掴む事が出来たから…。
「絶対に、幸せにしような、この子を…」
「ああ、この子の幸せを守り、導くのも、俺達の役目だ。
 守ろうな、何があっても、絶対に…」
「…うん…。」
マリンも、忘れていない。
幼い日々の幸せが、ずっと両親に守られ、導かれていた事を。
シュネー先生が、絶望の淵にあった自分を助けてくれて、
幸せをもらい、守ってもらえた事を。
そして仲間達と、パーシヴァルと出会い、
彼と共に幸せを掴み、今の未来を得たことを。
パーシヴァルも、マリンも、たくさんの人達に幸せに導かれ、守られ、
そして二人で一緒に二人の幸せを目指し、それを手に入れた。
だから、今度は…
「今度は、俺達がこの子の幸せを守り、導く番なんだな…。」
「ああ…。そして、この子だけじゃない…。お前の幸せを導き、守るのも、俺の役目だ。」
「パーシヴァル…」
「探そうな、これからも。
この世界で、俺達みんなで、楽しい事を、幸せな事を探して、
もっともっと、幸せになろう…!」
「…うん…!」
頷くと、マリンは目を閉じて、そっと唇を寄せて…
パーシヴァルもそれに応えて、目を閉じると、彼女に唇を寄せて…
母の胸を抱き、甘いミルクを元気よく飲む赤ちゃんの頭上で、
夫婦は、ミルクにも負けないぐらいの甘い口付けを交わし合う―。

辛い事、悲しい事。いくつものそれらを乗り越えて、二人は今を生きている。
幸せな現在(いま)を。
信じてる。
これからも、どんなに辛い事があっても、必ず断ち上がる事が出来て、
最後は必ず幸せを掴むことができると。
愛しい彼と、彼女と一緒なら、絶対できるって…!





「みんな、本当に、色々ありがとな。」
「元気でな。他のみんなにもよろしく。」
「ああ、三人もな。頑張れよ、お父さん、お母さん。」
同日の夕刻、ユウ達五人は、無事にパライソでの仕事を終えて、
再びブランシェへと飛び立つ事になった。

マリンの出産が終わり、夜が明けて。
マリンの出産の報は町の人達にもすぐに知れる事になり、
たくさんの親しい人達が、パーシヴァル達の自宅に祝福に訪れた。
その中には、プロフェッサー・クロノやその助手のジョン、
レーヴェ財閥会長のイオにその秘書のシアン、それにミソラ達の姿もあった。
ユウ達も午前中に一度訪れ、無事に仕事を終えた後にももう一度パーシヴァル達を訪問。
ギリギリまで時間を過ごしたところで、彼等もこの町を発つ時間となった。

「赤ちゃんも、またね!」
「名前が決まったら、また僕達にも教えてくださいね。」
「ああ、すぐに手紙を送らせてもらうよ。そっちも仕事、頑張って…!」
「はい…! 子育て、頑張ってくださいね!」
「ああ…!アケチも子作り頑張れよ!」
「あ、ああ…頑張るとも…。」


「またな、みんな!」
「また会える日を楽しみにしてるぞ!」
「俺達もだ! 家族みんなで、元気にな!」

別れの時間が終わり、鉄の鯨は再び飛翔し、東の空へと飛び立っていった。

「行っちゃったな、みんな。」
「ああ…」
飛び去るファッティホエール号の後ろ姿を見つめながら、夫婦は寂しそうに呟く。
「俺達、本当にたくさんの人達に助けられて、見守られてるんだな…。」
「うん…。改めて思ったよ…。俺達、本当に幸せ者だって…。」
誰からもその結婚を祝福された二人。
そして、二人の新しい家族の誕生を、両親が、仲間達が、街の人達が、みんな祝福してくれた…。
人々のあたたかい想いの環が、新しい家族を包み込んでくれた…。
「今度は、俺達が…」
「この子を幸せにする番だ…。」
すやすやとマリンの胸に抱かれて眠る愛娘を見つめて、二人はまた、微笑み合う。
「頑張ろうぜ、お母さん。」
「頑張ろうな、お父さん。」
「…帰ろうか、俺達の家に。」
「うん…さぁ、帰ろうか、赤ちゃん。」
若い新米の父親と母親は、歩き出す。
あたたかい、我が家に向かって。

「明日も、家族みんなで幸せな一日になるといいな。」
「そうだな…。こんな日が続くといいな。ずっと…ずっと…続くといいな。」
そして、光差す、新しい幸せの未来に向かって――。


今日もパライソの町には、たくさんの真紅のカーネーションの花が揺れている。
「母性」を象徴するその花は、新しい家族の誕生を祝福するように、
いつまでも、いつまでも、美しく咲いていた――。



おしまい
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Secret

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プロフィール

無頼

Author:無頼
ようこそ。
どうぞ、ごゆるりと。

↓管理人の特に好きなパワポケCP
6主×瞳さん
羽柴君×夏海さん
10主×紫杏

6主×瞳さんスキーな同志、
随時求みます。

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