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ショウカ

『空族時代編』投稿作品。
wayaさん、タワシさん、usukiさん、みーやんさん、
ぞいやさん、右さん、BLUEさん、
キャラと設定をお借りしました。

以下、SS本文になります。



『ショウカ』



「来るな! 紅蓮の悪魔め! こっちに来るな!」
――違う、俺は悪魔なんかじゃない。
「火を振りまく災厄め! さっさとこの街から出て行け!」
――違う、俺は災厄なんかじゃない。
「死ね! 早く死んでしまえ! この世界から消えてしまえ!」
――やめろ。やめろ。

「あんたなんか、産まなきゃよかった。」
――どうしてだよ、母ちゃん。
「お前は生まれてくるべきではなかったのだ。」
――どうしてだよ、父ちゃん。
――どうして、俺の事をそんなに嫌うんだよ。
「お前は死ななくてはならない。
 親としてのせめてもの情けだ。苦しまずに死なせてやる。」
――いやだ。いやだ。いやだ――!!

瞬間、縛り上げられた一人の少年に迫る二人の男女の身体が、一瞬の内に燃え上がった。
人の形をした火柱そのものと化していた。
悲鳴が上がる事は無かった。
二人の男女の身体は、すぐに生前の姿を留めていない、
炭化した杭のような物体へと変わり果てた。
そして、水分を完全に失った二つのかつて人間だった「それ」は、
パサリ、と軽く乾いた音を立てて、崩れ落ちた。
「………うわああああああああああああああああああああああああ!!!」
後に響いたのは、一人残された少年の悲痛な叫びだった――。





「くっ……!」
意識を覚醒させたファイアバグは、目を見開くと、周囲を見回した。
視界に映るのは、愛機『ヴァイレン・ネメシス』の見慣れたコクピットの風景。
それを目にした瞬間、安堵にも似た気が彼の心中に広がる。
――ここは、「夢の中」ではなく、「現実」だ。
「ハァ…ハァ…糞が…! またあの夢か…。」
彼の身体は、汗に濡れていた。

コクピットをわざと乱暴に開け、ファイアバグは愛機から降り立った。
彼の覚醒に気付いた周囲のカメダ軍団団員達は、
すぐに姿勢を整えると、彼に敬礼する。
恐れ戦いている様子なのは、明白だった。
ファイアバグは明らかに不機嫌な様子で、周囲を見渡す。
周囲の団員達の肝が冷える。
まるで、蛇に睨まれた蛙のようだった。
その中の一人に、ファイアバグはゆっくりと近付く。
自分に近付いてくる狂気の放火魔を前に、
若いその団員の頬をいくつもの冷や汗が伝い、心臓の鼓動が速度を上げていく。
既に、生きた心地がしなかった。
「…おい。」
「は、はい…!」
「今何時だ?」
「げ、現在は午前9時です。
 ファ、ファイアバグ様がご帰還されてから、7時間ほどが経過…」
「今何時かだけ教えてくれりゃいいんだよ。」
「し、失礼いたしました…!」
「で、何で俺、あいつのコクピットの中で寝ていたんだ?」
「そ、それは…ファイアバグ様がご帰還されてすぐに、
 ヴァイレン・ネメシスのコクピット内でお休みになられてしまいまして…
 だ、団長が、そのままお目覚めまでコクピットの中でお休みになられますようにと…」
「…要するに、俺が帰ってすぐにあん中で寝ちまったから、
 そのまま放っておかれたってわけか…。そうだったか…。」
ファイアバグは寝起きがあまり良くない。
起きた直後は、寝る直前の事を思い出せない時も、度々ある。
「大体わかった。それじゃ。」
「お、お待ちを…、お顔色が優れないようですが、お体の方は大丈…」
「うるせえよ。俺はとっとと部屋に戻りてぇんだ。
 さっさと退け。それとも、消されたいか。」
「ひ、ひぃっ…! も、申し訳ございません! し、失礼しました…!」
顔面蒼白になって謝罪する平団員を尻目に、ファイアバグは基地の格納庫を後にした。


「む…」
基地内にある自室の近くまで戻ってきたところで、
ファイアバグは自室の扉の前に、独り待ち構えている者が居るのを見つけた。
凛とした美しい佇まいの女影。
数少ない女性団員の一人である女剣士・ヴェールの姿だった。
「…目が覚めたか。」
「おはよーさん。この通り覚めてらぁ。」
「昨晩の任務、お疲れだったな。」
「そりゃどーも。生憎だが、まだ少し寝足りねぇんだ。
 そういうわけで、さっさとベッドで横になりたいんで、そこを退いてもらおうか。」
「退く前に、一つお前宛の伝言がある。」
「後にしてくれ。マジでさっさと寝転がりてぇんだ。」
「悪いが、伝え終るまで退く事は出来ない。」
「…何だとテメェ…」
わざとらしく不機嫌そうな顔に(実際、不機嫌なのだが)になると、
ヴェールをじろりと睨みつけ、顔をぐいっと近付ける。
ヴェールは、一切同じた様子を見せる事は無かった。
「そういやぁ最近、色々と不機嫌で溜まっていてな…。
 なんだったら、お前、もしお前がいいんだったら、
俺の「お休みの相手」でもしてもらおうか…。」
そう言って、ファイアバグはヴェールの整ったボディラインの美しい身体を、
舐めるような視線で見渡した。
対するヴェールは、依然無言・無表情のままだ。
「…フン、冗談だよ。」
ヴェールの人間性は、ファイアバグもよく知っている。
彼女の愚直なまでの真面目さと頑固さは、梃子でも動かせない強固な意志を生み出す。
言伝を託すまで、彼女はここを動くことは無いだろう。
それこそ、ファイアバグに焼かれたとしても。
「で、その伝言とはなんだ。」
「本日の時刻18時に、今後の作戦の通達がされる。
 時間までに、オペレーションルームに入室を完了しているように、との事だ。」
「ん…わかった。」
「用件は以上だ。それでは、失礼する。」
「おい、待て。」
「…何だ。」
「誰にその要件を伝えるように頼まれた。」
「…ババヤガン様からだ。」
「ハッ、ハカセも余計な気を回す。
 お前みたいな無口な奴に、メッセンジャーガールを頼むとはな。」
「話は終わりか。では、今度こそ失礼する。」
「おう、お休み。」
ヴェールが去ると同時に、ファイアバグもようやく、自室へと入室する。


「…………くっ…!」
ようやく自室の戻り、すぐにベッドに寝転がって目を閉じたファイアバグだったが、
彼の身体は、安息の眠りに就く事はできなかった。
目を閉じても、闇に浮かぶ、
先程まで愛機のコクピットの中で眠りに落ちていた際に見た、忌まわしき「夢」の光景。
それは、眠りに落ちる事を望む彼の意思を妨げる。
「…なんでだよ…! なんでまた、最近になって…!」
自室のベッドでの就寝を願って戻ってきた彼だったが、
部屋に戻ってきて30分と経つ前に、
彼は室内にあったジパング製の酒瓶一本を片手に、自室を発った。


ファイアバグ。
元はフリーのテロリストで、現在はカメダ軍団に所属する、
世界最悪のテロリストとも目される男。
彼のテロによって命を落とした人間は数知れず、
カメダ軍団に所属する人間の中でも、
最も多くの人命をその手で直接奪った個人ともいえる存在だ。
彼にとってこの世界に恐れるものはなく、
ただ、彼はこの世界を憎み、破壊し、殺戮し、愉しむ。
自らが犯した数えきれぬ殺戮の数々に、彼は一切の罪悪感を抱く事は無い。

ただ、唯一つの殺人を除いて。

彼は最近、同じ夢を何度も見るようになった。
それは、彼の記憶の奥底に封じ込められた、
彼にとっては思い出したくもない、忌まわしい過去だった。

発火能力という異能を持って生まれたファイアバグは、
物心ついた時には、既に周囲の人間達にとって
忌み嫌われ、蔑まれ、そして恐怖される存在になっていた。
そして、実の両親にさえも。

悪夢の内容は、いつも同じだ。
幼い彼に、周囲の人間達はひたすらに恐怖し、憎悪し、
罵声と殺意、ありとあらゆる悪意を向ける。
実の両親からもそれらを向けられ、
遂には息子を手にかけようとする。
死の恐怖を感じた幼い彼は、無意識のうちに「能力」を発現し、
両親は瞬く間に炎に焼かれ、炭化し、崩れ落ちる。
後に残された幼い彼の叫びが響き渡る。
――夢はいつもそこで途切れる。
それは、生まれて初めて彼が犯した殺人。
そして、彼が唯一罪悪感を今も尚抱き続けている殺人だった。

彼以外の誰も知らない、忌まわしく、悲しい記憶。


「んぐ…んぅ…ハァ…ハァ…」
カメダ軍団の秘密基地の数ある、海面に面し、空を仰ぐテラスの一角にて。
瓶の中身を飲み干すと、ファイアバグは無造作に空になった瓶を放り投げた。
その後は、ただ涼しい風を浴びながら、熱量の上昇する身体を涼ませるだけ。
時間がある時に眠れない際は、いつも彼はここでそうしている。
今は一人ここでこうしていたいものだ。
誰とも話をせず、誰の声も聞く事無く。
しかし、彼のそんな望みは叶わない。
「あ! いたいた!」
背後から聞こえてきた声が、
ファイアバグのささやかな今の望みを、もろく打ち砕いた。
「バーにいただいま!」
「…戻ったか、兄弟。」
幼い姿が奔り足でファイアバグに近付いてきたかと思えば、
嬉しそうに、屈託のない笑みでファイアバグに笑いかけた。
今のファイアバグにとって、
ある意味最も会いたくなかった相手かもしれなかった。
ニノ。
「グレムリン」のコードネームを与えられた、
カメダ軍団所属の少年団員だ。
能力の種類こそ違えど、彼もファイアバグと同じサイキッカーであり、
軍団内部でもファイアバグを恐れる人間の多い中、
そんな彼を慕う数少ない人間でもある。
「バーにいも今日帰ってきたばかりだって? お疲れ様!」
「ああ…お前はいつ帰ってきた? 一週前に、任務に出て行ったきりだったな。」
「オレもね、ついさっき帰ったばかりなんだ!
 今回の任務も大成功だったよ! やったよオレ!」
「そうか…それはお疲れだったな。おめでとう。」
「バーにいの方はどうだったの? やっぱり今回も大成功?」
「フン、まあな。」
「さっすがバーにい! やったね!」
無邪気に喜びを示すニノ。
まだ疲れも癒えておらず、不機嫌な様子であったファイアバグも、
ニノと話しているうちに、少し上機嫌になる。
「いつにも増して、嬉しそうだな、お前。
 何か他にもいい事でもあったのか?」
「うん!こっちに戻ってくる前に、ブランシェに寄って来てさ、
 高いけどとってもおいしいケーキをい~っぱい買ってきた(買ってもらった)んだ!
 新メニューのケーキも手に入ったんだよ!
 バーにい、また後で一緒に食べようね!」
「おう、いただくとするよ。…果物も全部残さずに食えよ。」
「わ、わかってるよ…。それとね、ブランシェに寄る前に、
 本当に久しぶりに、オレの家に寄ってきたんだ!」
瞬間、ファイアバグの心中に、動揺が広がった。
表情にこそ表れてはいないが、ニノの発したその一言は、
明らかにファイアバグにとって聞きたくない話題だった。
そんな彼の心の変化に気付けないニノは、嬉しそうに言葉を続ける。
「久々に父ちゃんと母ちゃんに会ったんだけど、
 二人ともとっても元気だったんだ!
 仕事で頑張っている事を話して、いっぱい褒めてもらったよ!」
やめろ。
「だけどね、すごく心配もされたよ。
 …そりゃあ、オレまだ子供だし、子供なのに一人で家を飛び出して、
 世界中飛び回って働いているわけだしね。
 できる事ならもう帰って来てほしいって言われたよ。
 父ちゃんや母ちゃんに心配かけちゃってるのはわかってる。
 心配してもらえたのはすごく嬉しいし、
 オレもたまには、父ちゃんや母ちゃんのところに帰りたいと思う事だってあるけど、
 でも、オレまだこの仕事を頑張るって決めているから!
 心配しないで、オレ、ちゃんと元気に頑張ってるから!って言ってきたよ。」
やめろ。
「バーにい、オレ、これからもこの仕事、頑張るよ!
 オレ、この仕事大好きだし、誇りに思っているし、
 それに、父ちゃんや母ちゃんにも、もっと楽をさせてあげた――」
やめろ!
ニノがそれ以上、言葉を続ける事はできなかった。
倒れたニノの首に、ファイアバグの手が伸びていた。
その時、ニノは初めて見た。
敵対者ではなく、自分自身へと向けられた、怒りと憎しみの感情が宿ったその表情を。
「やめろ。それ以上しゃべるな。」
「バ、バーにい、どうしたの…な、何を怒っているの…?」
「しゃべるなと言っている。黙ってろ…!」
「こ、こわいよ…バーにい…」
怯えきった表情のニノの目元には、うっすらと涙が滲んでいた。
「今更何を言ってやがる…! 俺は元々怖ぇ人間だよ!
 お前だって知っているだろ…!
 何千、何万、いや、それ以上の数の人間を焼き殺した人間さ!
 悪魔だよ! 人の形をしたバケモノ! それが俺だ!」
「ち、違うよ…。バーにいは悪魔でもバケモノでもないよ…。」
「……」
怒りと憎しみの形相のままに怒鳴りつけていたファイアバグの手が、
僅かに強張った姿勢を緩める。
「バーにいは、あんなにいっぱいオレをかわいがってくれたじゃないか…。
 確かに、怖い人だとは思うけど…でも、悪魔やバケモノなんかじゃないよ…。
 悪魔やバケモノだったら…優しくなんてしてくれないよ…。」
怯えきった表情で、弱弱しい声で、ニノはゆっくりと、言葉を紡ぐ。
彼の言葉を聞き終えると、ファイアバグはゆっくりと、ニノの首にかけていた手を放した。
「…悪いが、今は一人にしてくれ。」
「わかったよ…。ごめんよ…ごめんよ…バーにい…本当に、ごめんよ…」
何度も何度も、ニノはファイアバグに謝ると、テラスを後にする。
「………何をやっているんだ、オレは…。
 何の非も無ぇのに、アイツに当たり散らすなんてよ…。」
一人残されたファイアバグの心中に、苦いものが残る。

自身と同じ「異能の者」でありながら、
帰る場所があり、自身と暖かく迎えてくれる家族がいるニノ。
自身とは正反対な彼のその境遇に、
ファイアバグは嫉妬にも近い感情を覚え、
無意識のうちにニノに対しても憎悪に近い感情を抱く事もあった。
だが、同時に、何の非も無いニノに当たり散らした行為に、
後悔にも似た感情を覚えるファイアバグの姿もそこには在った。

多くの殺戮を繰り返した大量虐殺者。
その彼も、後悔の感情を完全に忘れ去ってはいなかったのだ。
そして、自身を慕う者に理不尽な怒りを向けた事への後悔を覚える心…
親しい者への、親愛の情も、彼はまだ失っていなかった。





同日、軍団長のカメダと、参謀のチャンションより、
次なる作戦の内容が通達された。
近年、国内である新種の鉱物が発見され、
その鉱物を用いた新エネルギー産業の活性化により、
ネグロにも迫る勢いで急成長を遂げた某国。
国力は急成長を遂げているものの、軍事力は決して強大ではないその国は、
カメダ軍団の標的となっている国家の一つだった。
チャンションの弄した策によりその国は近隣諸国と紛争状態に陥っており、
現在も、国境付近で戦闘が継続して続いている。
その国の最大規模のエネルギープラントの奪取。
それが、ファイアバグの率いる部隊に下された指令だ。
既に裏工作により、状況はより、カメダ軍団にとって有利な方向へと動いている。
準備は整っていた。
唯一懸念する存在は、各地で幾度となくカメダ軍団を阻む、
ファッティホエール号を中心に集う空族達の存在だ。


「なるべく…そう、最小限の被害で、エネルギープラントを制圧してもらいたい。」
「それはどちらの被害をだ?
 味方の方か? それとも、エネルギープラントの方か?」
「…両方、だ。」
「ちっ、めんどくせぇ。」
苦々しく表情を歪ませるファイアバグに対し、
チャンションは僅かに不快な感情を含んだ眼差しを向けた。
「…破壊するなら侵攻を阻む敵の戦力のみにしろ。
 無駄に味方の戦力も削られてはたまらんからな。」
「へいへい。わかってまさぁ。」
「…貴様、何度同じ返答をして、
 その後何度無駄な破壊とフレンドリーファイアを繰り返した…?」
わざとおどけたように返答するファイアバグの様に、
チャンションは不快感を抱くのを禁じ得なかった。
「フン、先生、あんたに言えた事か?
 勝つための策略にありとあらゆるものを利用するあんたにしては
 随分とお優しい事を言うものだなぁ?」
「貴様のように無駄の犠牲や破壊を出すような策を用いたつもりはないが?
 我輩の望む破壊や犠牲は、全ては未来の為に、革命の為に必要なものだ。」
「フン。」
付き合っていられるか、とばかりにファイアバグは踵を返した。
「どこへ行くつもりだ?」
「寝る。作戦開始時刻の直前まではお休みさせてもらうぜ。
 満足に寝ちゃいねぇんだ。」
振り返ることなく、そう言って退出する。
「…所詮は獣か…。」
一人残されたチャンションは、忌々しげに吐き捨てた。

「ケッ、何が未来だ。革命だ。その為に必要な破壊と犠牲だ。」
吐き捨てているのは、ファイアバグも同じだった。
「壊し、殺すのに違いは無ぇんだろ。
 所詮、革命なんざ、殺すしかねぇんだよ。」
尤も、未来も、革命も、俺にとってはどうでもいいものだがな。
ファイアバグは、そのどちらも求めていない。
ただ、壊し、殺す。
彼が望むのは、それだけだ。





「…行くか。」
作戦決行日当日。
出撃時刻を前に、ファイアバグは酒を一本飲み干したところで、部屋を出た。
気分は最悪だ。
また、あの夢を見た。
湧き起こる怒りと破壊衝動は収まらない。
チャンションの指示は、おそらく今回も完全に果たされる事は無い。

「ん…?」
基地の滑走路に向かう途上の通路。
彼の行く手を、一つの小さな影が待ち受けていた。
ニノだ。
「…何の用だ?」
不機嫌そうな声。
先日のことを思い出し、内心少し気まずい気分だ。
「バ、バーにい、この間の事は、ゴメン…。」
「あー…別に謝んなくてもいいぞ。
 お前何も悪くないからな。俺の方こそ、悪かったな。」
そう言ったところで、自身の言動に驚き、戸惑う。
他者に謝罪の言葉を述べる事を、どれだけ忘れていたのだろう。
「今から、任務なんだよね?」
「ああ…」
「あ、あのさ…、この間買ってきたケーキなんだけど…
 オレ、まだ一つも食べていないんだ…。」
「ハァ? もう買って何日も経っているんだろ?
 早く食わねぇとマズくなるぞ。」
「いや…オレ、バーにいと一緒に食べたかったから…。
 オレも今から任務で数日間ここを空けるんだけどさ…
 また今度、一緒にケーキ食べてくれない…?」
「…何日後になる…。大体そんなに日数が経過したら、相当マズくなっちまうんじゃ。」
「大丈夫! バーねえが裏ワザを教えてくれたんだよ!」
「何の裏ワザだ…。まぁ、いいぞ。」
「ホント!?」
少し暗く沈んでいたニノの表情が一転、ぱぁっと明るく輝く。
「ホントにいいの!?」
「ああ、いいぞ。ちゃんと付き合ってやる。」
「ホントだね! 約束だよ!」
「ああ、ああ。そろそろ時間だから退いてくれ。
 急がにゃならんくなる。」
「わかったよ。 約束だからね! バーにい!」
「おうおう。んじゃ。」
「頑張ってね! バーにい!」
ファイアバグの後ろ姿が見えなくなるまで、ニノはずっと手を振っていた。

「まったく、あのガキは…」
呆れたように呟きながらも、
ファイアバグは、少し不機嫌だった気分が、少し良くなったような気がした。





傾き行く陽の光を浴びながら、
ヴァイレン・ネメシスを中心としたカメダ軍団の部隊は、
標的であるエネルギープラントを目指して飛行を続けていた。
エネルギープラント近隣に待機している軍勢は、大した数にも満たなかった。
今も尚、某国と隣国との紛争状態は継続している。
この程度の戦力など、ヴァイレン・ネメシス一機でも殲滅は容易だろう。
「彼ら」が、この戦闘に介入さえしなければ。


「チッ。」
目標のエネルギープラントまで後僅かと迫ったところで、
レーダーに幾つもの機影が確認されたのを確認し、ファイアバグは舌打ちした。
間違いなかった。
邪魔で仕方ない、例の「彼ら」だった。
視力のいい彼は、いち早く、「彼ら」の存在を肉眼で捉えた。
鯨を思わせる外観の航空母艦。
そしてそれを中心に展開する、いくつもの戦闘挺。
幾度となく自分の前に立ちはだかった、「彼ら」だった。
「クジラどもが…」


眼前に迫る「赤き暴力」を前に、
ユウ達の闘志は加速的に燃焼していく。
幾度となく立ち塞がった強敵・ファイアバグ。
彼によって引き起こされた数多の破壊と殺戮。
眼前で彼によって引き起こされたいくつもの惨劇と悲劇。
それらを知る彼ら全員は、ファイアバグに対して激しい怒りを抑える事は出来なかった。
彼らにとって、ファイアバグはこの世界から排除すべき敵でしかなかった。
「ファイアバグ…!今日こそ、必ず…!」
怒りに満ちた声で、ユウが力強く呟く。

「殺し過ぎる。 やりすぎたのさ、貴様は。」
真紅の戦闘挺『レッドドラゴン号』のコクピットよりヴァイレン・ネメシスを見据えて、
レッド・ボイラーは静かに呟く。
ファイアバグを鎮めるべく、彼もこの戦いに参戦する。
自らの望むままに破壊と殺戮を延々と続けるファイアバグの存在は、
彼にとっても許しがたい存在だった。
そう、「過ち」を犯し続ける彼の存在は、絶対に。

「ファイアバグ…!貴様だけは…!」
そして、彼らの中でも特にファイアバグへの強い怒りを燃やす、
先陣を切りゆく白き戦闘挺のパイロット。
かつて友人達をファイアバグのテロによって失った
軍の元エース・スウォン。
空に還った「白き閃光」は、「火消しの風」となりて、空を切る。


ファッティホエール号には様々なパイロットが集う。
空族、軍の元エースなど、優秀なパイロットが数多く。
その全てが、火を消さんとする。
そう、破滅をもたらす「放火魔」の火の、その火の元を断たんと。


「空族風情共が…! 相も変わらず正義の味方気取りしやがって…!」
怒りの感情に囚われ、「放火魔」は咆哮する。
「選んで殺すのが、そんなに上等かよっ!!」
そして、空に暴力の嵐が吹き荒れる。


海上に立ち込めた雲に、いくつもの爆発の炎が反射する。
それは、沈みゆく夕陽の色と併さって、空を、雲を、より鮮やかに染めた。
ファイアバグは、いつもにも増して猛り狂っていた。
ただ、目の前の空族達を沈めようと、圧倒的な暴力を奮い続けた。
炎。炎。炎が空を包む。
戦闘が続く中、いくつもの機体が焼かれ、落ちてゆく。
当初はカメダ軍団側が戦線を有利に進めていたが、やがて、戦局が変わり始める。
カメダ軍団側の多くの航空戦力が徐々に失われていき、
たとえヴァイレン・ネメシスがいくら強大であろうと、
目的であるエネルギープラントの制圧が、現有戦力では厳しくなってきたのだ。
彼らの抵抗は、ファイアバグやチャンションの想定を、遥かに超えていたのだ。

『撤退しろ! ファイアバグ! 部隊を引き上げさせろ!
 このままでは目的の達成もままならん!』
「撤退だと!? ふざけるな! 俺は撤退するつもりはない!」
『貴様! このままだと死ぬぞ!』
「死なねぇよ! 今日という今日は、こいつらを皆殺しにしねぇと気が済まねぇんだ!」
『貴様! 正気か!?』
「俺がいつ正気だった事がある! 俺は狂っているさ! いつだってなぁ!
 通信切るぞ! 戦いに集中できないからなぁ!」
『ま、待て!』
一方的にチャンションからの通信を切ると、
ファイアバグは再び眼前の敵達に敵意に満ちた視線を向けた。
幾度となく撥ね退けておきながら、未だに仕留め損なっている、
目障りな存在に向けて。
憎いこの世界を愛し、守ろうとする「正義の味方達」に向けて。
「全員、今日こそ灰にしてやる…!」


だが、いくら「暴力」が強大であろうと、
いくつもの「勇気」は、それに屈する事は無かった。
怨敵を追い詰めた彼らの勢いは、留まる事は無かった。
ファイアバグは怒りに我も痛みも忘れて、独り戦い続ける。

やがて、その時がやってくる。
孤立無援となり、満身創痍となったヴァイレン・ネメシスに向けて放たれた、
スウォンの搭乗するベルーガの銃撃。
それは、鉄壁を誇ったヴァイレン・ネメシスの機体を撃ち抜き、
ファイアバグの身体をも撃ち抜いていた。
燃え上がるヴァイレン・ネメシス。
「全てを焼き尽くす暴力」は、炎上しながら、ゆっくりと墜ちてゆく。
翼をもがれた断末魔。
墜ちゆく機体の各所から、いくつもの爆発がのぼる。
「ク…ククク…ヒャハハハハハ…!…死ぬ時は…こんなものか…」
殺しもする。殺されもする。
通信でチャンションに「死なねぇ」と大口を叩いてはいたが、
ファイアバグは、いつ自分が死んでもおかしくないと思っていた。
昔から、何度も死にかけた事などあったのだ。
たまたま今まで生き延びる事が出来ただけで、
今日こそ死ぬ番が回ってきた。
勝ったのは彼ら。負けたのは自分。
戦場には、生きる奴と死ぬ奴がいるだけ。
今回、自分が死ぬ奴になった。
それだけだ。
「まぁ…悪魔やバケモノには相応しい死に方か…」
燃え上がるコクピットの中で炎に包まれながら、
死を目前にして、先程まで怒りにまかせて猛り狂っていたというのに、
ファイアバグは冷静だった。
死んだら、どうなるのだろうか。
何もない「無」へと還るのか。
地獄に堕ちるのか。
それとも、自分が殺してきた者達と同じ所へ行くのか。
そんな事を考える余裕すらあった。
「親父、お袋…あんたらは…俺を許しちゃくれねぇだろうな…。」
そして、自らが殺したことに、唯一罪悪感を持っている両親の事を想う時間も。
「ああ、そういやぁ…悪ィな、兄弟…。ケーキは一緒に食えそうにねぇ…」
最期に浮かんだのは、自分を唯一慕ってくれた、幼い少年の事だった。
それを最後に。
轟音。
一際大きな爆発と共に、稀代の殺戮者・ファイアバグの身体は、
ヴァイレン・ネメシス共々、爆発の中に四散し、消えた。
彼の魂が安らかだったかどうかは、定かではない。

全てを焼き尽くす炎は、ショウカされた――。





「馬鹿者が…」
「信じられないYO…。まさか、彼があんな最期を迎えるなんて…。」
「残念です…。惜しい人を亡くしました…。」
ファイアバグ、戦死。
その報に、ババヤガンとスカインは沈痛な面持ちを浮かべ、
彼を内心嫌っていたチャンションも、その報にはショックを禁じ得ない様子だった。
「どうするの? あいつが死んじゃったら、色々と面倒なことになるんじゃない?」
「問題は無いでやんす。
 奴が欠けたところで、まだ充分に手はあるでやんす。
 まぁ、奴が使えなくなってしまったのは残念でやんすけどね。」
カメダは大した動揺も見せず、ヨミチにそう答えた。
「しかし、彼らしく、それでいて彼らしくもない最期だったね。」
ジオットの声には、どこか冷笑するような響きがあった。

カメダ軍団はエースの一人を失った。
これより軍団は、更なる新たな戦力を強いられる事になる。





「う、嘘だ…」
護衛からの報告に、愕然とした表情で、力なくニノが呟く。
「う、嘘だろ…? なぁ、今言ったのって嘘だろう…?
 冗談だろう…? そんな冗談、子供のオレでも騙されないぞ…。
 なぁ、冗談だろ…? 冗談だって言ってくれよ!」
「残念ですが…冗談ではありません…。」
力なく、重苦しい表情で、護衛は声を押し出した。
「嘘だ…嘘だ…バーにいが負けただなんて…
 バーにいが死んだなんて…そんなの…嘘だ…嘘だ…
 嘘だああああああああああああああああああああああああああ!!!」
かつてない悲しみと怒りが、幼い少年の心を包む――。


一つの憎しみが終わり、新たな憎しみが生まれる――。
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Secret

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プロフィール

無頼

Author:無頼
ようこそ。
どうぞ、ごゆるりと。

↓管理人の特に好きなパワポケCP
6主×瞳さん
羽柴君×夏海さん
10主×紫杏

6主×瞳さんスキーな同志、
随時求みます。

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